最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)4247号 判決 1958年9月30日
主文
原判決を破棄する。
被告人を第一審判決判示第一事実につき罰金一万円に、同第二事実につき罰金一万円に処する。
右各罰金を完納することが出来ないときは、金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
押収にかかる五斗かめ(証第一号)五斗入桶(同第三号)二斗入かめ(同第五号)はいずれもこれを没収する。
理由
弁護人吉住秀吉の上告趣意は単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。
しかし、職権により記録を調べてみると、第一審は被告人に対し、判示第一の免許を受けないで清酒を製造した事実につき罰金一万二千円に、判示第二の免許を受けないでもろみを製造した事実につき罰金一万五千円に処し、右各罰金不完納の場合には金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべきものとし、押収物件(証第一、三、五号)を没収する旨の判決を言い渡したが、これに対し被告人から控訴の申立があったので、原審は第一審判決を量刑重きに過ぎるとして破棄した上、被告人に対し、右第一の事実につき罰金一万円に、第二の事実につき罰金一万円に処し、右各罰金不完納の場合には、金二百五十円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべきものとし、押収物件(証第一、三、五号)を没収する旨の判決を言い渡したこと明らかである。そこで第一、二審の言い渡した罰金刑は、そのいずれが重いかの問題について考察しなければならないが、第一、二審判決の刑の軽重を比較するには、これを形式的にのみ判断することなく、綜体的考察の下に実質的具体的になすべきものであること当裁判所大法廷判例(昭和二五年(あ)第二五六七号、同二六年八月一日言渡、集五巻九号一七一五頁参照)の趣旨とするところである。従って罰金刑の場合においては、その罰金額の多寡の点のみを見て判断すべきではなく、これと共に、その不完納の場合における換刑処分としての労役場留置期間の長短の点をも綜合して判断すべきものであるといわなければならない。今本件についてみるに、前記の如く、第一審は被告人を判示第一の事実につき罰金一万二千円に、同第二の事実につき罰金一万五千円に処し、原審は両事実につき各罰金一万円に処したのであるから、罰金額の点においては、原判決は第一審判決の合計二万七千円より七千円減じた二万円となっているが、他方、罰金不完納の場合の換刑処分を、第一審判決は金五百円を一日としたのに対し、原判決は金二百五十円を一日としたため、労役場留置期間の点においては、第一審判決の五十四日に対し、原判決の八十日となり、約一倍半に延長されたこと計算上明らかである。されば両判決の罰金刑を綜体的実質的に考察して比較するときは、原判決の方が重くなっているといわなければならない。この点において原判決は刑訴四〇二条の規定に違反しており、のみならず理由においては、第一審判決は重すぎるから軽くすべきであるといいながら、その結論である主文においては、却ってより重い刑を量定したことになり、理由と主文に食違いが存在する。この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであり、かつ原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる場合に該当するから、原判決は刑訴四一一条一号により破棄を免れない。
よって同四一三条但書により直ちに判決する。
原判決が確定した事実を法令に照すと、被告人の所為中、清酒製造の点は酒税法七条一項、五四条一項、罰金等臨時措置法二条に、もろみ製造の点は酒税法八条、五四条一項、罰金等臨時措置法二条にそれぞれ該当するところ、いずれも所定刑中罰金刑を選択すべく、以上は刑法四五条前段の併合罪であるが、酒税法六一条により刑法四八条二項の規定は適用しないで所定罰金額の範囲内において、被告人を主文第二項掲記のとおり量刑処断し、右各罰金を完納することが出来ないときは、刑法一八条に則り主文第三項掲記のとおり換刑処分の言渡をなし、押収にかかる主文第四項掲記の物件の没収につき酒税法五四条四項の規定を適用し、なお第一、二審及び当審における訴訟費用は刑訴一八一条一項但書によりこれを被告人に負担させないこととし裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)